親権・監護権問題のご質問とアドバイス

親権とは何か

親権は、親の子の対する支配権ですか

親と子の関係では、支配権ではなく、子供の成長権に対応した親の責務です。国家に対する関係では、教育を干渉されないという意味での権利ですが、子の最善の利益に従って行使しなければならないという強い制約があります。

親権については、親の子に対する支配権とする立場と、子供の成長権に対応した親の責務とする立場の二つの見解があります。

旧法時代は、子は親の親権に「服する」と表現される一方で、懲戒権が規定されていることから、支配権説が主張されたこともありますし、今でも憲法上の権利だとする説もあります。

しかし、現行法では、懲戒権は削除され、親の子供に対する人格尊重義務(817条の12)、子の最善の利益の原則から、子供との関係では、子供の成長権に対応した親の責務と解されています。もし、言動等から、この親は、支配権的に親権ととらえていると認識されると、面会交流自体も難しくなってきます。
ただ、教育内容にみだりに干渉されないという点では、国家に対する関係では、「権利」です。

親権者としてふさわしくない親

裁判所が、親としてふさわしくないと考えるのは、どのような場合ですか

その言動から、不安定で攻撃的なパーソナリティの場合です。

代理人や当事者が、さかんに相手を攻撃する人格非難書面を提出しますが、裁判所は、その書面を読んで攻撃された相手に悪印象を持つことはなく、逆に、そのような書面を提出する態度に疑問を持ちます。このような主張書面は、意味がないどころか有害です。

裁判所は、その当事者の「発言」より「行動」を観察します。一番良い判断材料が、養育費・婚姻費用をできるだけ抑えようとする態度です。これは、子どもに対する愛情の欠如としか思えません。

それと、SNSで相手や代理人を攻撃する、懲戒申立や刑事告訴、懲戒申立をする等の行為は、攻撃しなければ心のバランスが保てない情緒不安定なパーソナリティを示すものととらえられます。

調停での発言態度も大きく影響します。自分の主張にこだわる粘着質な態度、些細なことで感情的・攻撃的になる態度は、自分で自分の首を絞めるようなものです。

裁判所は、こういう一連の行動から、当事者が親としてどの程度の適格性があるのかを判断しています。いくら主張書面で、立派な主張をしても、相手を非難しても、それにより心証が形成されることはありません。この主張書面を出したから勝てたということは、ありえません。

親権監護権の判断基準

裁判所は、どのような基準で親権・監護権を決めるのですか

年齢により異なりますが、子供の意思、今までの監護実績、親権者としての適格性を総合的に判断します。

裁判所の公式的な見解は、以下の通りです。

[子供の意思]
家庭裁判所の調査官は、親権・監護権の判断にあたり、概ね10歳以上の子供については、子の意向を調査し、10歳未満では、子の心情調査をします。概ね10歳以上では、子の意向を優先的に考えます。

[継続性の原則]
継続性の原則とは、現在及び過去の監護状況の実績です。より多く子供に関わってきた親、現在、子供を監護している親が、監護者・親権者として、優先されるべきだという考えです。子供が小さいときは、子供の意思の把握が難しく、この原則が重視されます。

[母性優先の原則]
より母性的な親が監護者・親権者として、優先されるべきだという考えです。母親優先の原則とは異なります。主に子供が乳幼児の場合に重視される原則です。
全体の90%は、母親が親権を獲得していますが、これは、母親の方が監護実績が多いという現実もあります。

[その他]
以下の原則がありますが、補充的なものです。

〈比較考慮の原則〉
それぞれの家庭環境を比較するものです。経済的な環境は、女性の場合は重視されませんが、男性の場合は、重視される傾向にあります。

〈兄弟不分離の原則〉
兄弟は、できるだけ一緒に育てようという原則です。

〈面会交流に対する寛容性〉
面会交流に否定的な親は親権者・監護権者としての適格性に疑問があるという考えです(この原則は、モラハラ・DVの加害者ほど、有利になることから、現在は、否定的意見が主流です)

このうち、中心となるのは、子供が大きいときは子の意思の尊重で、子供が小さいときは継続性の原則です。それ以外は、極めて補充的です。

監護実績があるのに親権を取得できない場合

共働き夫婦ですが、私(妻)の方が、主に子供を育ててきたのに、親権・監護権は、父親とされてしまいました。どうしてですか?

複雑な要素が絡み合っています。

Q3に述べた諸原則は、両親が、ともに親として十分な適格性のあるパーソナリティの場合です。しかし、公的には明記できないけど、明らかに子育てにふさわしくないパーソナリティがあります。精神が脆弱であるとか、育児ストレスによる耐性が極めて弱い場合です。

またやたらと攻撃的な親も問題です。

実際、弊所でも、育児ノイローゼから子供を父親に預けてしまったような母親のケースでは、親権・監護権は、母親が取得できませんでした。精神的に脆弱すぎたのです。

逆に、母親が風俗で働いたことがあり、父親がエリート商社マンだった事案では、その父親の傲慢な態度のため、親権は母親になりました。

本人は自覚できないのですが、やはり親としてふさわしくない、というパーソナリティはあります。ただ、人格非難は、いわれた当事者の強い反発が予想されるため、代理人・裁判所も含めて、周囲の誰も指摘しようとしません。本人には、なぜ、自分が親権をとれなかったか、永遠の謎です。

離婚後共同親権

離婚後も共同親権になるのはどのような場合ですか

強制されることなく、協働の関係性を築ける場合か、親権者である同居親を別居親に監視させる場合です。

どういう場合に、離婚後、共同親権となるのかは、民法819条が規定しています。①協議で決めた場合と②審判で決まる場合です。協議で共同親権と定めれば問題ないのですが、問題は、裁判所が審判で共同親権と定める場合です。

この時の考慮事情は、同条7項に規定があります。

(1)単独親権と定めなければならない場合

(ア)子ども・配偶者に対し「人間としての尊厳」を傷つける行為があった場合(1・2号)

子に対する精神的・身体的な虐待、配偶者に対するDV・モラハラ行為がある場合等、人間としての尊厳を傷つける言動等がある場合です。過去にそのような行為があれば、将来も、そのリスクがあると推測されます(部会での答弁)。この要件は、比較的明確です。

(イ)父母の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる場合(2号)

これは、激しい葛藤状態があるときは、原則として共同親権はあり得ないですよという規定です。当然、SNSでの悪口とか、刑事告訴とか、養育費の踏み倒し等があれば、共同親権はありえないということになります。

法務大臣も、父母間の葛藤が激しいときは共同親権はあり得ないと明言しています。

(2)共同親権とする場合

条文では、一方で、父母の同意がなくとも共同親権とする場合もあり得ることも前提としています。これは、親権者に問題がある場合を想定し、監護する親を別居親が監督するような場合を想定していると思われます。

たとえば、母親は親権者・監護者として問題ないが、奇妙なオカルト的宗教を狂信しているような場合、あるいは、母親としてやるべきことは一応しているが、異性の出入りが激しいような場合です。

こういう場合は、共同親権とすることで、別居親に同居親を監督させようというのが規定の趣旨です。

ここから明らかなように、共同親権を主張するためには、共同親権としなければ子の最善の利益に明らかに反する、という特別の事情を立証しなければなりません。ここでいう「特別な事情」とは、離婚後も紛争が継続するリスクを覚悟しても、なお親権を共同行使させる必要性が極めて高い場合です。従来、家裁が監護権と親権を分離していたような場合でしょう。極めて例外的に、年に数件あるかないかでしょう。

(一部の弁護士WEBに、非親権者向けに、共同親権の申立てを促すようなサイトがありますが、現実には、合意がない限り、共同親権はまず無理です)。

子の意思の尊重

親権の帰属の判断にあたり「子の意思」は尊重されないのですか

民法の規定では、考慮要素として、夫婦・親子の関係性を挙げていますが、子の意思は明記されていません。
これは、子の意思を明記すると、子供が両親の紛争に巻き込まれるリスクがあり、また親が子に踏み絵を踏ませるような事態になるリスクもあるからです。

子供に「どちらを選ぶか」を問うのは、子供を紛争に巻き込むので絶対にダメと言われています。このような発言をすること自体が、親権者としての適格性を欠くものとされています。

しかし、子供時代に離婚を経験した人へのアンケートでは、親権の判断にあたり自分の意見を聞いてほしかったという回答が非常に多かったのも事実です。

子の意思を最大限尊重しつつ、かつ、子供を両親の紛争に巻き込ませないというのは、非常に難しい問題で、正解がないというのが実情です。

共同親権下で単独行使が可能な場合

共同親権下で単独で親権を行使できる場合はどのような場合ですか

①日常の行為か②急迫の事情がある場合③審判の場合です。

婚姻中にせよ、離婚後にせよ、共同親権とした場合、必ず共同行使としたのでは、かえって子の福祉に反します。

民法842条の2は、共同親権下でも、単独行使できる場合を規定しています。

(ア)監護・教育に関する日常的行為(824の2Ⅱ)

子どもの習い事、重大な影響のない治療・薬の選択、ワクチン接種、高校生のアルバイト等がこれにあたります。

(イ)急迫の事情がある場合(824の2Ⅰ3)。

合格後の入学手続き、DV・虐待からの避難、緊急性のある医療行為

(ウ)審判

日常行為でなく急迫な事情もない場合、親権者同士の意見がぶつかり合った場合、裁判所は審判を下します。

進学先の選択、引越しなどです。ただ、離婚後も、進学先の選択で、いちいち費用と時間をかけて裁判手続きをとるのは、同居親に相当な負担となることば明らかです。

親権者の変更

一刻も早く離婚したくて親権を夫に渡し、協議離婚しました。親権を取り戻したいのですが

合意した当時とは事情が変更したという証明ができる場合、もしくは親権者と定めた経緯から変更を認めるのが相当な場合は、認められます。

従来、いったん当事者で決めた合意が裁判所の基準と異なるというだけで親権者変更はできないと解釈されてきました。変更するためには、合意した当時とは事情が変更したという証明が必要でした。例えば、妻が育てるというので妻を親権者と決めたのに、妻は子供を親戚に預けっぱなしで海外で何年も仕事をしているとか、児童虐待が疑われる等です。

これに対し、従来は、妻が子どもを育ててきたのに、離婚を急いだために父親を親権者としたような場合は、親権者変更は認められませんでした。

しかし、民法819条8項では、「第6項(親権者変更)の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。」と規定し、「その後の事情の変更」以外にも、「当該協議の経過」も考慮すると規定しています。

そして、「当該協議の経緯」を考慮する場合

①DV・モラハラ行為があったか(父母の一方から他の一方への暴力等の有無)

②調停やADR等が利用され慎重に判断された結果か公正証書が作成されたか

等の事情も考慮すると規定されました。

このうち①は当然です。

これに対し、②は、旧親族法下での実務を変更するもので、本来、親権者となるべき親が、無知から安易に親権を放棄したような場合などは、事情の変更がなくとも、親権者変更を認めようという規定です。

実子誘拐

夫に無断で子供を連れて家を出るのは諸外国では例がなく、わが国でも実子誘拐になる聞きました。同居が無理な時は、子供を置いて出るしかなのでしょうか?

子どもを連れて家を出ても、問題になることは、原則としてありません。

欧米各国では、わが国のような協議離婚制度はなく、全て国家の監督下で国家が認めた条件で国家の許可を得て離婚します。ですから、子供を連れて逃亡するというのは制度上あり得ませんし、その必要もありません。

これに対し、わが国は、協議にせよ調停にせよ、裁判離婚は全体の2%で、98%は、協議離婚です。離婚に関しては、わが国は、極めて特異な制度なのです。

この協議離婚制度は、対等な力関係の夫婦が協議して離婚することが前提の制度設計になっています。しかし、相手がDV・モラハラ等の場合、対等な会話ができない夫婦の場合は、話し合いは不可能です。この状態で協議すれば、相手の言いなりになってしまいます。協議離婚制度の前提が崩れていますから、子供を連れて家を出るしか選択肢はありません。距離を置き、できるだけ対等に話せる立場になって離婚を協議するというのは合理的な方策で問題ありません。

連れ去られた子供を取り戻すには?

妻が私の留守中に子供を連れて実家に帰りました。どうすればいいですか?

配偶者が子供を連れ去った場合、速やかに監護者指定・子の引渡しの審判を求めることになります。

この場合、速やかに監護者指定・子の引渡しの審判及び保全処分を申し立てます。

調停や協議では時間が経過し、既成事実が積み重ねられて、最終的に子供を取り戻せなくなる可能性が高いからです。この手続きは、時間との勝負で、弁護士に頼むしかありません。

もし親権が決まった後に非親権者が子どもを連れ去った場合は、人身保護法の請求となります。誘拐罪での告訴も検討すべきです。

先に子供を連れて家を出れば親権が取れる?

先に子供を連れ去り既成事実を作ったほうが有利になると聞きましたが、本当ですか?

間違いです。

裁判所は、先に子供を連れて出たほうが勝ちという単純な判断はしていません。監護実績等を慎重に判断して決めています。

そして、多くの場合、監護実績のある方が子どもを連れて家を出るケースが多く結果として、子連れ別居で親権を獲得することが多いのです。

但し、親権・監護権の獲得が難しい配偶者が子供を連れ去った場合は、実力行使ととらえ、その現状を容認しません。面会交流も認められなくなる場合があります。 特に、父親が子供を連れ去った場合は、子供の返還を命じられるばかりか、子供との面会交流さえも難しくなる場合があります。

いずれの場合も、当事者は冷静な対応が求められます。SNSに投稿し相手を非難するとか誘拐罪で刑事告訴する等すると、感情をコントロールできないパーソナリティで、監護実績以前に、そもそも親としてふさわしくないと判断されてしまいます。

監護者の権限

現在は共同親権ですが、審判で私が単独の監護者と指定されました。私は、どこまで単独で監護権を行使できるのでしょうか

身上監護に関する事項は、単独でできます。

親権は、身上監護権と財産管理権(民824)から構成されています。身上監護権の内容は、①監護教育権と子の監護教育における人格尊重義務(民821)②居所指定権(民822)③職業(民6の「営業」よりも広く他人に雇われる場合も含む。但し、労働契約は代理できない・労基法58Ⅰ)許可権(民823)④身分上の行為の代理権(認知の訴え・相続放棄等)⑤医療行為の代理権などです。

財産管理権は、財産管理と代理権(民824)、利益相反における特別代理人の選任請求(民826)などです。例えば、子供名義の預金等の解説は、財産管理権の問題です。

共同親権下でも、単独監護者に指定されなかった親は、財産管理権等のみ共同で行うにすぎません。子供の日常の教育・育児は、監護権がないとできません。

子の監護の分掌

共同で子供を育てたいと思いますが、可能でしょうか

可能です。

共同親権下で、監護を行うと定めない限り、監護も親権の一部として共同で行うことになります。

また、協議して、監護の分掌を行うこともできます。例えば、奇数月は母のもとで暮らし、偶数月は父のもとで暮らすという共同監護です。民766は「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母と子との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と規定し、両親で共同で、あるいは監護を分担し合うことも可能だとしています。
この共同監護、監護の分担は、旧民法下でも可能でしたが、現行法は、これを明文化し確認したものです。
ただ、現実には、この監護の分掌は、合意がない限り、まず審判で認められることはないでしょう。
それは、両親間で、よほど高度な信頼関係がない限り、監護の分掌は、共同親権以上に子供を紛争に巻き込むことになるし、分野によって責任を負う親が異なるということは、子供を混乱させるからです。

たとえば、奇数月は母のもとで暮らし、偶数月は父のもとで暮らすという共同監護は、一時、フランスで行われたことがありますが、子供の精神状態を不安定にするということで、現在は否定されています。

わが国でも、平日は母が監護し、週末は父が監護するという共同監護の審判を出し共同養育を実現しようとしたことがありましたが、子供への負担が重すぎるという理由で、現在、このような共同監護の審判がでることはありません。

共同監護は、家族間に強い信頼関係があるときのみ可能であり、審判で強引に監護の分掌をすれば、犠牲になるのは子供です。

離婚後の共同監護は、理想の家族形態ですが、それは、当事者のパーソナリティでしか実現できないもので、国家が強制できるものではありません。