会社人間と離婚

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今はもう死語になったが、バブル全盛期、猛烈社員とか会社人間という用語は、どちらかというと肯定的に使われていました。巨人の星とかスポコン漫画も全盛期で、根性さえあれば、必ず目標は達成できる、目標を達成できないのは根性がないからだ、そういう発想で、引きこもりの人も、甘やかしているのが原因で、ヨットで鍛えれば、根性がなおり、引きこもりが治る(戸塚ヨット事件)と真面目に信じられていました。24時間、働けますか、なんてCMも流れていましたね。このCMも、怠け者の欧米人に比べて日本人は根性がある、という肯定的なCMでした。日本最強時代でした。

そういう時代背景もあってか、このころ、やたら、会社人間万歳!みたいな離婚請求棄却の判決が出されていました。

その最先端を行くのが、いわゆる青い鳥判決です。長年にわたって暴力やモラハラを受けていた妻が、離婚請求したのに対し、

ゲゼルシャフト的な生き方をゲマインシャフト的な家庭生活に持ち込んだ被告にその失敗があると見られるのであって、訴訟継続中、ひとかどの身代を真面目に作り上げた被告が法廷の片隅で一人孤独に淋しそうにことの成行きを見守って傍聴している姿は憐れでならない。
「ゲマインシャフト的な生き方をゲゼルシャフト的な行動しか知らない被告に要求しようとした原告にも性急な面があると言わざるを得ない。」

と訳の分からない判決文を書き、

「原告(妻)と被告(夫)、殊に被告に対して最後の機会を与え、二人して何処を探しても見つからなかった青い鳥を身近に探すべくじっくり腰を据えて真剣に気長に話し合うよう、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認め、本訴離婚の請求を棄却する次第である。」

と述べて離婚請求を棄却しています。

二人で青い鳥を探せとか、ゲマインシャフト云々とか、書いた裁判官しか理解できない判決文です。しかも、この裁判官、静岡地裁浜松支部では、諸事情で4年間、別居親が子供と面会できない事案で、同居親に500万円の慰謝料請求も命じています。

東京高判H13・1・18(判タ1060・240)も、ここまでユニークではないとしても、同レベルの判決です。妻は、晩年、病気がちで、卵巣腫瘍、椎間板ヘルニア、胃がん、C型肝炎、変形性股関節の手術・治療等が相次ぎ、できるだけ家事育児をこなしてきたが、これ以上は、夫にあわせて生活できないとして、娘とともに家を出て、別居3年半、離婚訴訟を提起した事件です。一審(横浜地裁相模原支部H11・7・30判時1708・142)は、離婚を認め、さらにその「身勝手な生き方」を指摘して慰謝料200万円の支払を命じていますが、なんと、二審である東京高裁は、仕事人間である夫が「良識ある人物」だ、もう一度話し合えとして、離婚請求を棄却しています。

結局、妻側は、再度、離婚調停からスタートし、また地裁、高裁と離婚訴訟を繰り返しました。今度は、一審も二審も、前訴の横浜地裁相模原支部と同じ理由で離婚認容。しかし、前訴の一審判決がでてから、5年経過していました。この方は、東京高裁の判決のおかげで、残り少ない余生の5年を無駄に費やしたことになります。

今振り返ると弁解の余地のないほど奇妙な判決ですが、当時は、男尊女卑の思想が裁判所にも強く残り、会社人間なら、家庭で多少のことは許されるみたいな考えが蔓延していました。この二つの珍判決は、当時のわが国の社会風潮を反映したものです。

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この記事を書いた人

1951年新潟県出身。中央大学法学部卒業。東京弁護士会所属。1981年弁護士登録。1983年森法律事務所設立。家事事件・不動産事件等が中心業務。主な著作に『法律家のための相続判例のポイント』・『法律家のための遺言・遺留分実務のポイント』・『弁護士のための遺産相続実務のポイント』(いずれも日本加除出版)などがある。趣味はカメラを片手に旅すること。森法律事務所:東京都中央区新川2-15-3 森第2ビル TEL:03-3553-5916