DV・モラハラ概念と法規制とのズレ

DV・モラハラとは何かについて明確な定義があるわけではありませんが、本来は対等であるべき夫婦関係・恋人関係について、上下関係を暴力を使って上下関係にしてしまう行為というのが、法社会学的な概念でしょう。暴力には、精神的な暴力、経済的な暴力等も含みます。夫の場合、「私はきちんと働いて家にお金をいれている。にもかかわらず、お前の家事はなってない」といって、言葉で精神的に追い詰めるというのが一番多いパターンです。「きちんと働いている。家族を支えている」という自信のある夫は、当然、「私の方が上で、なってない妻は下だ」と無意識に考えていますから、自然と妻を「指導する」ことになります。妻の場合は、「ともかくあんたは常識がない。私が教えてやらなければダメだ」と思い込み、中には、私の意見に従わない夫は自己愛性パーソナリティ障害だと信じ込み、やはり、上から、いろいろと「指導」します。こういう無意識のうちに上下関係を築こうという行為は、その人の生来的なパーソナリティに根差していますから、本人は、自覚できません。DV・モラハラ加害者にとっては自然な行動で、意図的に何かをしているわけではありません。
ただ、こういう夫婦間の上下関係の構築は、概念自体が非常に曖昧で、法律的な基準たり得ません。法律でDV・モラハラを認定するには、やはり、客観的な要件が必要となります。じゃあ、どういう基準にするか。むずかしいのは、DV・モラハラは被害者保護のためには、迅速に判断しなければならないこと、それだけに冤罪の可能性も高いということです。
そこで、法律は、効果と要件を関連づけています。一番、効果の高いのはDV防止法による接見禁止命令です。近づけば逮捕拘留になり、懲役刑もあります。それだけに、要件がものすごく厳しいです。DV防止法による接見禁止命令は、本来のDV・モラハラのほんの一部しかカバーしていません。
逆に、要件が一番緩いのは支援措置です。被害者の恐怖感だけを基準とし、その恐怖感も、配偶者暴力相談支援センター等での相談実績から判断します。そのかわり、効果は、ほとんどないに等しい。住民票を交付しません、それだけです。他の方法で所在場所を探し出すのはかまわないし、接近しても問題ありません。裁判所での法的手続きも、可能です。
こういうふうに、我が国は、迅速性と冤罪防止の両立を図るために、要件と効果を関連付けた制度にしています。
よくDV防止法による接見禁止命令とか損害賠償請求が棄却されたことから、冤罪であることが証明されたという意見がありますが、それは、刑事罰や金銭支払義務を負わせるほどのDV・モラハラではなかったというだけの話で、DV・モラハラ自体がなかったということではありません。
以上のことは弊著「熟年離婚事件の弁護士実務」に書いてありますから、そちらをお読みください。 https://ctznsp.co.jp/book/9784911284087
追記
1,「熟年離婚事件の弁護士実務」 至誠堂書店「今週のベストセラー」で8位にランクインされました。 https://ssl.shiseido-shoten.co.jp
2,「弁護士のための財産分与実務のポイント」 弁護士会ブックセンターで、4月は、8位にランクインしました。12月は3位、1月、2月は4位で、発売して5か月たっても、まだ8位というのは、大変、ありがたいです。
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